マルチキャスト通信のメリットとデメリット:事例や注意点を解説
マルチキャスト通信は、1対1の通信(ユニキャスト)ではなく、同じデータを複数のクライアントに同時に配信する通信方法です。
マルチキャスト通信を用いることで、ネットワーク上での通信負荷を軽減し、スケーラビリティを向上させることができます。その一方、ネットワークの機器の設定が複雑化することや相性問題、セキュリティ上の問題が発生する可能性など、注意点も多数存在します。
今回は「マルチキャスト通信のメリットとデメリット」を事例と注意点を交えながら解説します。
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マルチキャスト通信のメリット
マルチキャスト通信の主なメリットは、主に以下の3点です。
マルチキャストによるネットワークトラフィックの削減
マルチキャスト通信は冒頭に記載の通り、1対1の通信ではなく同じデータを複数のクライアントに配信する(1対多数)ことで、ネットワークトラフィックを削減することが可能です。
そのためネットワークの負荷が軽減されスケーラビリティ(拡張性)が向上します。
通信回数を削減し、情報の提供効率を向上
マルチキャスト通信を利用することで、1対1の通信に比べ通信回数が削減されるため、コストを削減することが可能です。
また、多数のクライアントへ同時に情報を提供(送信)すること可能なため、マルチキャスト通信を利用することで、情報の提供効率を向上させることができます。
レスポンス時間の短縮
マルチキャストによる同時に多数のクライアントへの情報提供を行うことで、レスポンス時間の短縮が可能です。
レスポンス時間の短縮が可能なことによって、ビジネスプロセスの効率化やユーザーエクスペリエンスの向上が期待できます。
マルチキャスト通信のデメリット
マルチキャスト通信の主なデメリットは主に以下の3点です。
マルチキャストの設定は複雑
マルチキャスト通信を行うためには、送信側と受信側の両方のネットワークの機器で設定を行う必要があります。
送信側の設定では、マルチキャストグループのIPアドレスを決定し、そのグループに参加するクライアントを登録します。
また、マルチキャストグループのトラフィックが送信側のネットワークに到達するために、L3スイッチやルータへ「マルチキャストルーティング」の設定も必要となります。ciscoのネットワークスイッチへマルチキャストの設定を行うコマンド解説はこちらで行っています。
受信側の設定では、マルチキャストグループに参加するために、受信側のアプリケーションがマルチキャストグループに参加する設定を行う必要があります。
また、受信側のネットワークにおけるマルチキャストトラフィックの制御も必要です。
マルチキャスト通信を行うためには、ネットワークのトポロジーや構成、プロトコルなどについて考慮して設定を行う必要があるため、一般的にマルチキャスト通信の設定は、専門知識を持ったネットワークエンジニアが担当することが多いです。
ただし、最近のネットワーク機器は、マルチキャスト通信の設定を自動的に行う機能を備えていることが多くなっているほかクラウドサービスを利用することで、マルチキャスト通信を簡単に設定することも可能となってきています。
セキュリティ上の問題が浮上
マルチキャスト通信を行うネットワークでは、セキュリティ上のリスク発生します。
マルチキャストグループは、グループに参加することで通信に参加することができます。しかし、誰でもグループに参加できるようにしてしまうと、不正なクライアントにグループに参加され、通信内容の盗聴や改ざんなど様々なセキュリティ問題が発生する可能性があります。
以下がマルチキャストグループに不正クライアントが参加することで、考えられる代表的なリスクです。
・パケットの漏洩(通信の盗聴)
マルチキャストトラフィックは、送信者が送信したデータをグループ内の全てのクライアントが受信するため、通信の内容が漏洩するリスクがあることに加え、不正なクライアントがグループに参加することで、通信内容が盗聴される可能性もあります。
・データの改ざん
不正なクライアントがグループに参加することで、通信内容を改ざんすることができます。例えば、不正なクライアントがマルチキャストトラフィックに自分が作成したデータを混入させることで、正規のクライアントに対して偽情報を送信することなどが可能となってしまいます。
・DoS攻撃
マルチキャストグループは、グループ内の全てのクライアントに通信内容を配信するため、DoS攻撃の標的となります。不正なクライアントがグループに参加することで、大量のトラフィックを送信することができ、ネットワークの帯域幅を占有することができます。
これらのリスクを軽減するためには、グループに参加するクライアントの認証や、通信内容の暗号化、ファイアウォールやIDSの設置などのセキュリティ対策が必要です。
ネットワークの管理者は、マルチキャストグループの適切な管理を行うことで、不正なクライアントの参加を防止し、セキュリティリスクを軽減することができます。
マルチキャストを採用することでネットワークの制約が生まれる
マルチキャスト通信は、ネットワーク上での制約があります。たとえば、ルーターやファイアウォールがマルチキャスト通信を許可していない場合、通信が行われないことがあります。
更に「ルーティングプロトコルの制約」も存在し、マルチキャスト通信では、送信元から複数の宛先へデータを配信する必要があるため、ルーティングプロトコルが必要です。しかし、現在のインターネットでは、ルーティングプロトコルが単一のパスしか設定できないため、マルチキャスト通信を利用するには、特別なルーティングプロトコル(Protocol Independent Multicast (PIM))が必要となります。
また、ネットワーク機器の中には、マルチキャスト通信をサポートしていない製品も多数存在することから、機器の仕様などを事前に確認しておく必要があります。
マルチキャスト通信を用いたサービスの事例
マルチキャスト通信は、さまざまなシステムやサービスで利用されています。下記がその一例です。
1.マルチメディア配信
マルチキャスト通信は、マルチメディア配信において広く利用されています。例えばインターネットラジオやインターネットテレビ、IP電話などの通信ではマルチキャスト通信が使用されています。
2.センサーネットワーク
センサーネットワークは、複数のセンサーデバイスが集まって構成されるネットワークです。
一般的にはマルチキャスト通信を利用してデータを送信することが多く、センサーノードが定期的に環境情報を収集し、その情報をネットワーク上の他のノードや基地局に送信します。このようなデータの送信において、マルチキャスト通信は、単一のノードから多数のノードに同時にデータを配信することができるため、効率的な通信が可能になります。
4.オンラインゲーム
オンラインゲームでは、同時に多数のプレイヤーが参加するマルチプレイヤーゲームにおいて、効率的な通信を実現するためにマルチキャストが利用されます。
一般的に、オンラインゲームにおいては、プレイヤー間の通信においてリアルタイム性が求められ、プレイヤー同士のコミュニケーションや、プレイヤーが行う操作に応じた他のプレイヤーの反応などがリアルタイムに処理される必要があります。
しかし、一般的なネットワーク通信では大量のデータを送信する場合には通信の遅延や帯域幅の制限によって、リアルタイム性が損なわれることがあります。
そこでマルチキャスト通信を利用し、同一のデータを複数の宛先に同時に配信することで、オンラインゲームにおいて多数のプレイヤーが同時に行う操作やプレイヤー同士のコミュニケーションなどを効率的に処理することが可能となっています。
マルチキャスト通信を行う、設定する際の注意点
1.ネットワーク機器のサポートを確認する
マルチキャスト通信を利用するためには、ネットワーク機器がマルチキャスト通信をサポートしている必要があります。したがって、マルチキャスト通信を利用する前にネットワーク機器のサポート状況を確認する必要があります。
2.マルチキャストグループのアドレス範囲を設定する
マルチキャスト通信においては、マルチキャストグループのアドレス範囲を設定する必要があります。アドレス範囲の設定は、マルチキャスト通信を利用するアプリケーションごとに一意のアドレス範囲を設定することが推奨されます。
3.マルチキャストトラフィックを制限する
マルチキャスト通信は、同じネットワーク上の多数の端末にデータを送信するため、ネットワークトラフィックを圧迫する可能性があります。そのため、ネットワークの混雑を避けるためにマルチキャストトラフィックの帯域幅を制限することが必要です。
4.セキュリティに配慮する
マルチキャスト通信を利用する際は、セキュリティに配慮して設定を行います。マルチキャスト通信は、同じネットワーク上の多数の端末にデータを送信するためデメリットでも紹介したように、不正なアクセスによる攻撃やリスクが高くなります。
したがって、マルチキャスト通信を利用する場合は、グループに参加するユーザーを正確に管理することや、マルチキャストトラフィックに対するファイアウォールやIDS(侵入検知システム)の設置など、適切なセキュリティ対策を設計しましょう。
5.ネットワークトポロジーを考慮する
マルチキャスト通信は、ネットワークトポロジーによっては通信が遮断される可能性があるので、マルチキャスト通信を利用する場合は、「ネットワークスイッチの設定」「適切なルーティングプロトコルの選択」「VLANの設定」「IGMPの設定」などのネットワークトポロジーを考慮する必要があります。